草津白根山が噴火
2018年1月23日、群馬県草津の白根山(本白根山の鏡池付近)が噴火、火山性微動も確認され噴火警戒レベルを平常(活火山であることに留意)の「1」から火口周辺規制の「2」を経て、入山規制の「3」まで引き上げられています。
鏡池付近からは、距離にして1キロ以上飛散する噴石も観測されています。
当日に確認されている被害は概ね次のような状況です。
・訓練中の自衛隊員ら7人が雪崩で巻き込まれ、このうち49歳の男性隊員1人が死亡
・雪崩に巻き込まれ(一般人)6人がけが
・噴火の影響で停電し、ゴンドラにスキー客らが閉じ込め(後に予備電源で救出)
・噴火による噴石がゴンドラに当たって窓ガラスが割れて複数人がけが
・スキー場の麓にあるレストハウスでは飛んできた噴石が屋根を突き破る被害
画像出典:Wikipedia「草津白根山」より、山頂火口の「湯釜」。
今回、気象庁は噴火速報を発表できませんでしたが、その理由は本白根山が前回噴火した記録は約3000年前であったということと、最近の火山活動は鏡池から約2キロ北に離れた白根山の湯釜付近が中心で、今回の噴火が発生した鏡池付近の活動はなかったことから、鏡池付近を監視するカメラは設置しておらず噴火かどうかの確認が遅れてしまったということです。
そして何より気になるのは、白根山が巨大断層線である「糸魚川静岡構造線」の東側に広がる「フォッサマグナ」の上にあるという事実。
雪崩や噴石による被害者も出てしまったため早期収束を祈りつつ、これが今後、巨大地震に繋がるかどうか注視したいところです。
噴火警戒レベルに関する予備知識
「噴火警戒レベル」とその数値が報じられていますが、レベルは弱〜強の順で1〜5まで、内容は次の通りです。
■ レベル1:「噴火予報」・活火山であることに留意。
火山活動はほぼ静穏だが、火山灰を噴出するなど活動状態に変動があり、火口内では生命に危険が及ぶ可能性がある。
■ レベル2:「火口周辺規制」・噴火警報(火口周辺)
火口内や火口の周辺部で、生命に危険を及ぼす火山活動(噴火)が発生した、あるいはその恐れがある。
■ レベル3:「入山規制」・噴火警報(火口周辺)
生命に危険を及ぼす火山活動(噴火)が発生し、居住地域の近くにも及んだ、あるいはその恐れがある。
■ レベル4:「避難準備」・噴火警報(居住地域)
居住地域に重大な被害をもたらす火山活動(噴火)が発生すると予想され、その恐れが高まっている。
■ レベル 5:「避難」・噴火警報(居住地域)
居住地域に重大な被害をもたらす火山活動(噴火)が発生した、あるいはその恐れが高く切迫した状態にある。
今回はレベル3まで引き上げられたので、「生命に危険を及ぼす火山活動(噴火)が発生し、居住地域の近くにも及んだ、あるいはその恐れがある」という状況が該当します。
出典:気象庁「噴火警戒レベルが運用されている火山」
活火山である白根山や周辺の山に関するこれまでの状況
草津の白根山は2014年以降、山頂の湯釜周辺を震源とする火山性地震が増加しており、2014年6月に噴火警戒レベルが「1」の平常から本州で唯一の「2」の火口周辺規制に引き上げがありました。
※当時のニュース『御嶽山噴火で「東北・信越・関東の危ないスキー場&温泉地」を緊急警告!(2)草津白根山は警戒レベル上昇』
その3年後の昨年6月には「湯釜のガス濃度低下」の状況を受けて警戒レベルは1に引き下げられました経緯があります。
※その当時のニュース『草津白根山 警戒レベル1へ「湯釜のガス濃度低下」群馬県』
また、群馬県と長野県にまたがる「浅間山」でも、2011年の東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)の翌日、3月12日から山頂火口の南及び南東で地震活動が活発化し、同年4月19日には火山性地震が発生。2015年には小規模ですが火口付近で噴火が発生しています。
浅間山では2000年代に入って以降、2015年までの間に噴火を伴う火山活動が合計9回も観測されています。
出典:Wikipedia「浅間山」より、「雪面に降った火山灰、2009年2月の噴火後」
思い返される御嶽山噴火
2014年と言えば、長野県と岐阜県の県境に位置する御嶽山(おんたけさん)の噴火が記憶に新しいと思います。火口に居合わせた58名もの登山者が死亡し、日本における「戦後最悪の火山災害」とも言われています。
この御嶽山が噴火した際の噴火警戒レベルは平常を意味する「1」でした。
前兆現象としては、噴火の約2週間前から火山性地震の増加は観測されていましたが、火山性微動は観測されていませんでした。
ようやく噴火の11分前になり火山性微動が観測され、7分前には傾斜計で山体が盛り上がる変位も観測。もはやこのタイミングでの山頂からの避難は不可能です。
そしてなんと、この御嶽山も白根山と同様に巨大断層線である「糸魚川静岡構造線」の東側に広がる「フォッサマグナ」の上にあるのです。
出典:Wikipedia「2014年の御嶽山噴火」より、「噴煙を上げる御嶽山」
噴火した白根山を含めて、プレート境界であるフォッサマグナ上にどれほどの火山が位置しているかの図を作成してみました。
将来の大噴火が懸念される富士山や2015年に活動が活発化した箱根山も範囲内、2014年に爆発的噴火があった御嶽山も糸魚川静岡構造線にかなり近いことが判ります。
地震や噴火が相次ぐ今、備えを強化しておきたい地域
首都直下型地震や南海トラフ地震での被災対象となる地域での備えが必要であることはもちろん、新たに白根山の噴火が注目されていますが、今後、加えて注視しておきたい地域の1つは上信越地域です。
「糸魚川静岡構造線」という大断層線があり、フォッサマグナと呼ばれる巨大な地溝帯の西側に位置します。そしてこの大断層線は日本列島の地下にある「北米プレート」「ユーラシアプレート」の境界にあり、南端は「フィリピン海プレート」と接しています。
これらのプレート群は常に潜り込む形で動いているため、巨大地震の震源にも成り得るのです。
画像出典はWikipedia「中央構造線」より。
図は「糸魚川静岡構造線」と「フォッサマグナ」。青線が糸魚川静岡構造線、薄オレンジ色がフォッサマグナ。赤線は「中央構造線」で、日本最大級の断層。熊本地震の震源はほぼこの中央構造線上で発生しました。
フォッサマグナが広く周知されたのは、小松左京原作の小説で映画化もされた「日本沈没」でしょうか。映画は1973年に公開され、2006年にリメイクされています。巨大地震と火山噴火、地殻変動により日本列島が海に沈んでしまう状況に、深海潜水艇のパイロットが命をかけて立ち向かうというあらすじです。
登場人物で俳優の豊川悦司さん演じる「地球物理学者の田所博士」のセリフに、次のようなものがあります。
「いいか、良く聞け!プレートの断裂は北海道の南部から始まる。九州の出水断層帯も危ない。阿蘇は噴火するだろう。四国から、紀伊半島に連なる中央構造線が裂けて南側が沈んでいく。日本の活断層はそのエネルギーに耐え切れず、次々に割れていく。本州中央部、糸魚川・静岡間のフォッサマグナが裂け始めたら、その時はもうおしまいだ。富士山の大噴火とともに、日本は一気呵成(いっきかせい)に沈んでいくんだ。」
作品自体は一見すると荒唐無稽なSFディザスターパニックものですが、特に2006年版は映像面含めても大変見ごたえがあります。幾度モノ大震災や噴火が相次ぐ近年、改めて観直したい作品です。まだご覧になってない方はぜひ。
話しが寄り道してしまいましたが、さてこの先、発生が予想されている巨大地震はいくつかありますが、どれが先に起きるのかは不明です。
南海トラフ地震に関しては、検討を続ける国の中央防災会議の作業部会が2017年の夏に、「現在の科学的知見では地震発生時期の確度の高い予測は困難」とする最終報告をまとめました。
さてここで「南海トラフ」が実際どこにあるのかご存知でしょうか。NIED(国立研究開発法人 防災科学技術研究所)が発表している図を見てみましょう。
出典:NIED
南海トラフが位置しているのはフィリピン海プレートの北端です。東端には相模トラフも存在します。このプレートの配置構造からすぐに解ることは、今後発生が予測されている巨大地震は連動する可能性があるということです。
首都直下型地震や南海トラフ地震が先に発生すると仮定しそれらが連鎖した場合、糸魚川静岡構造線にも波及することは十分想定内。そして糸魚川静岡構造線に接するフォッサマグナの上には、富士山・箱根山・八ヶ岳・妙高山。いずれも火山。
首都直下型地震や南海トラフ地震の被害が想定される地域では、比較的マスメディアなどでも話題になり備えに関する報道がなされ、個人レベルでも備えている人たちは多いと思います。
しかし糸魚川静岡構造線やフォッサマグナに関する話題とその上に位置する地域での備えの必要性を報道などで見かけることはありません。
上信越地域にお住まいの方々も、ぜひ防災用品や備蓄の準備、被災時の避難ルートの確認や連絡手段などをチェックしておいてください。
まとめ
特に東日本大震災以降、日本は地震や火山の活動期に入ったとも言われています。近年相次ぐ大きめの地震や、2014年の御嶽山の噴火から4年後に近くの白根山の噴火が目立ちますが、噂レベルでは「富士山の大噴火」なども長らく言われています。
しかしなんとか震災や噴火から命を守れた後は、それまでの備えがモノを言います。その備えとは、国や自治体に頼るのではなく、自ら用意しておくことが何より重要です。
例えば、首都直下型地震で想定される避難者は東京都だけでも720万人ですが、避難所は220万人ぶんしか用意されていません。実に500万人もの都民が避難所に入れない状況で被災後の生活を乗り切らなければならないことになります。
備えに対する財政力は恐らく国内随一の東京ですらこのような状況ですから、他の都道府県や自治体に至ってはかなり厳しい状況になることは容易に想像できます。
場合によっては、首都圏から1000万人単位の人々が他の地域へ「集団疎開」をせざるを得ない可能性もあります(東日本大震災では、小規模ですが福島から市町村単位での移動が実際に発生しました)。
被害が大きくなるほど、政府や自治体の初動対応は遅れがちになることはこれまでの例を見ても明らかですし、また公的な備えにおいては質・量ともに限界もあります。状況が深刻な被災地では、ルールやモラルや共助機能が崩壊してしまうケースもあるでしょう。様々な意味での「自分たちの生活と安全は自分たちで守る」という発想も、これからは必要になるのかもしれません。