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【コラム】阪神・淡路大震災の記憶とともに考える「ワタシの防災訓練」

時間とともに風化していく過去の巨大震災。「喉元過ぎれば熱さを忘れる」という諺(ことわざ)もありますが、東日本大震災ですら日常の話題にのぼることは少なくなり、今後も長く続くであろう福島の原発での現在の対応が目立って報じられることはありません。そして遡ること1990年代、近畿地方を巨大な地震が襲い6000名を超える死者が出ました。その「阪神・淡路大震災」を思い起こし、いまや形骸化しつつある「防災訓練」について考えてみましょう。

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上記写真出典:‘Wikipedia:日本における地震対策と体制’から、東北地方太平洋沖地震発生後の東京都・新宿駅南口の様子(2011年3月11日16時頃撮影)

阪神・淡路大震災の記憶

写真出典:神戸市・阪神・淡路大震災「1・17の記録」

1995年1月17日の未明、淡路島北部沖の明石海峡を震源としてマグニチュード7.3の巨大地震が発生しました。近畿圏の広域が大きな被害を受け、犠牲となられた方々のうち死者は6,435名・負傷者は43,792名を数え、戦後の地震災害としては東日本大震災に次ぐ規模の激甚災害となりました。

 

記録によると、地震発生当日に死亡した5,000名を超える方々の8割近くが地震発生から1時間以内に死亡。9割が圧迫死だったそうで、早朝の発生ということもあり自宅での就寝中、特に建物の1階で圧死した方が多かったそうです。

 

震災発生直後には最大時30万を超える加入電話(固定電話)に障害が発生。特に神戸には局所的な被害が集中し通信手段や交通網も寸断されてしまったため、被災情報を発信することができなくなってしまったのです。このことも、当時の政権の初動対応の遅れにつながったとされています。街なかで大きく傾いた柏井ビルや倒壊した阪神高速道路の映像を覚えている方も多いのではないでしょうか。

日常的には、テレビや新聞などで阪神淡路大震災に関する報道を目にするのは、毎年1月17日前後ですが、たとえばYouTubeなどに行けば、当時の様々な映像記録を今でも観ることが可能です。

備災FUN!』では、次の震災・災害に備える「備災」をテーマに、被災時にも大活躍のアウトドアグッズを日常で活用して「楽しみながら備える」情報をメインに発信しています。

20世紀末。いわゆる「ノストラダムスの大予言」などでは「1999年に世界が終わる」などの世界終末論などがテレビや雑誌などで話題になったりしていた時代です。

 

日本のインターネット通信はまだ黎明期で今ほど普及しておらず、携帯電話はようやくアナログからデジタル化への移行期。twitterやLINEどころか、スマートフォンそのものが当時は存在していなかったため、現在のようなネットを活用した安否確認などは不可能な状況でした。

 

そうした経験をきっかけに、震災時対応に関して多方面・多角的な整備が進んでいったことも事実です。企業や地域、一般家庭などでも震災に向けた備蓄の必要性が認識され、防災訓練の重要性も改めて問われるようになりました。

形骸化しがちな啓蒙型の防災訓練

写真出典:陸上自衛隊・平成25年度五條市総合防災訓練平成 25 年度五條市総合防災訓練

 

「防災訓練」と聞いて、どのようなイメージを思い浮かべるでしょうか? 学校や職場、各地域では少なくとも年に1回は防災訓練を実施しているのが普通ですから、参加した経験のあるかたも多いでしょう。防災訓練の主なものとしては、地震や火災が発生した想定の「避難訓練」や「消火訓練」、それに付随する「救出・救護訓練」などがありますが、これらの訓練によって身に付いた知識やスキルはあるでしょうか?

 

筆者は、学校では先生の指導に従い参加、職場では上司からの指示で参加、地域では町内会などで動員されて参加と、いずれも義務的に参加したものの、現実的には何も覚えていない・何も身についていないというのが正直なところです。

 

消防署の職員の方などの専門的な知識やスキルを持った方が指導してくれる、貴重な機会を全く生かしきれていなかったと感じています。過去の自分を振り返ってみると、なぜ防災訓練が必要なのか、防災訓練には何の意味があるのか、問題意識を持たずに参加していたために、何も残っていないことに気が付きました

写真出典:Wikipedia:阪神・淡路大震災:柏井ビル倒壊 推移1 傾いていた頃

 

人は、自分が経験したことのない出来事に遭遇した時、困惑したり動揺するのが普通であり、状況に適した行動を迅速に行えないことがほとんどです。だからこそ、防災訓練に参加したり備蓄などの災害への備えを行うことで、少しでもそうした状況に対応できるように準備しているのです。

 

しかし、いつ遭遇するかわからない・遭遇しないかもしれない災害を「自分ごと」として捉えることはなかなか容易ではありません。これまでおこなわれてきた防災訓練はどちらかといえば「啓蒙型」のもので、実感を持って積極的に取り組むにはちょっと恥ずかしかったりやりにくかったりといった性質のものが多かったように思います。

啓蒙から楽しめる防災訓練へ

ITOITO-STYLEでは、そうした問題に『楽しむ』というエッセンスを加えることによって、災害への備えを自分ごとにしようという試みを提案したいと思います。

 

つまり、「キャンプを楽しむ → 知識やスキルが備わる → 被災時にどのよう使えるのかを考える → 防災に関する問題全般を考える → 防災に取り組む(行動する)→ キャンプを楽しむ …」という循環が生まれ、防災への取り組みが自分ごとになり、日常化するというわけです。
その結果、従来型の防災訓練への見方も変わり、せっかく参加するなら、自分に役立つ知識やスキルを学ぶ場にしようと思って参加するようになったのです。

 

ITOITO-STYLEが、みなさんにとってもそうしたきっかけになると嬉しいのですが、最近では様々な団体や地域でもなかなか面白い防災プログラムが実施されているので、そうしたプログラムに参加することで防災問題をより自分ごとにすることができるかもしれません。そこで、そうした取り組みを少2つほど紹介しておきたいと思います。

イザ!カエルキャラバン!

写真出典:イザ!カエルキャラバン!

NPO法人プラス・アーツ が開発した、地域の防災訓練プログラム「イザ!カエルキャラバン!」は、おもちゃの交換会と防災訓練をミックスした内容で、子どもたちが楽しみながら、防災知識を養えるという内容になっています。

 

例えば、消火訓練についても、単に消火器の使い方の説明を受けるという内容ではなく、水消火器で的を狙うというゲーム感覚で体験できる、防災に関する知識についても、防災かるたや防災すぐろくを使って学べるというように「楽しみながら」をキーワードに工夫が施されています。

 

「イザ!カエルキャラバン!」は、例年全国で開催されています。参加費無料、事前申込不要なので、当該地域にお住まいでお時間のかる方はお子さんと一緒に参加してみてはいかがでしょうか。

防災をテーマとした ”わこうプレーパーク”「マルボさんを救え!」

写真出典:埼玉県和光市・市民協働推進センター公式ブログ

埼玉県和光市でプレイパーク事業を行っているNPO法人わこう子育てネットワークと防災啓発活動を行っている任意団体和光ボウサイ部が連携して、防災とプレイパークを組み合わせたイベントが実施されています。

 

子供たち向けの「外あそび」の中に防災訓練的なプログラムを組み込んだ内容になっており、2017年11月26日に開催された際には、段ボールを使ったテントづくりやごみ袋を使ったポンチョづくりで寒さや雨をしのぐ方法を学ぶなど、遊びと学びが詰まったイベントだったようです。

次世代の防災訓練のカタチ

細心の防災訓練の状況としては、従来の啓蒙的・義務参加的なものからよりリアルで緊迫感を実感できるものが登場してきています。

その中で、Youtubeで観ることができる体験型のものの映像を2つほどご紹介しておきます。

こちらは、愛知工科大学工学部 板宮研究室が公開している津波体験ドライビングシミュレーターの映像です。ヘッドマウントディスプレイを用いて、津波や洪水体験が可能になっています。

続いてこちらは、JAF公式チャンネルから「360度動画でVR体験!水没車両からの脱出」というもの。冠水し水没していく自動車の助手席の視点から、動画を操作できるようになっています。

もし津波や洪水に襲われた場合にどうなっていくのか、自分自身がこの助手席に座っていたら、という視点で見ると、なかなか恐ろしい動画になっています。

まとめ

「防災訓練」と聞くと、その必要性と重要性は重々認識してはいるものの、心のどこかでは堅苦しかったり退屈だったりといった感情もあると思います。しかし、実際の防災訓練は様々な形で取り組んだり体験することが可能です。

 

ITOITO-STYLEで取り組んでいるのも、アウトドア活動やキャンプをそのまま、防災訓練と意識してしまうことです。電気・ガス・水道などの社会インフラが無いキャンプ場を被災地と見立てて、テントは仮設住宅、備蓄食材のストックローテーションを兼ねた食事を作って食べるといったアクティビティに慣れることで、いざ災害となった場合でも命が無事なら対応しやすいスキルやノウハウが身につくはずです。

 

防災とは「災害を防ぐ」と書きますが、実際のところ自然災害は防ぐことができません。防げないのであれば、災害に備える・被害を減らすという観点の「備災・減災」がこれからの重要なキーワードであり、取り組むべきスタイルと言えます。

 

その点、衣食住のうち「食住」を自前で賄うキャンプは、個人や家庭における防災訓練(備災訓練)としても楽しく取り組める活動です。「キャンプは不便を楽しむもの」という言葉がありますが、これまでに起きた震災直後の不便な生活を顧(かえり)みるキッカケにもなり、また、次に起きるであろう南海トラフ地震や首都直下型地震などへの備えにつながるとも考えられます。

 

すでに趣味としてのキャンプを楽しまれている方も、時々はキャンプを防災訓練と位置づけてやってみるのはいかがでしょうか。また、まだキャンプに行ったことがない方は、これを機会にぜひ体験してみてください。

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