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【コラム】震災後の在宅避難とアウトドア道具の活用

備災FUNコラム・第2回目は、震災発生後に想定される生活とアウトドア道具の活用に関するお話しです。

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第1回目となった前回の記事では、これまでの大震災経験をヒントに今後発生する可能性の高い次の地震災害に備えるため、アウトドアグッズやキャンプ用品の利用を日常生活に取り入れてはどうか、というところまでのお話しでした。第2回となる今回はもう少し掘り下げて、「防災用品と震災時の在宅避難」についてをお届けします。

【最低限「市販の非常用持ち出し袋」は用意しておく】

阪神淡路大震災以降、各家庭での備えが必須とまで言われるようになった「非常用持ち出し袋」。今や様々な防災グッズを詰め込んだ商品が多数販売されています。毎年定期的に購入して入れ替えをしているご家庭も多いのではないでしょうか。

平時は特に必要となるものではありませんが、やはり備えておけばいざというときに心強いもの。購入後はクローゼットの片隅などにしまい込まれがちですが、日本国内各地で地震が増えている昨今、2〜3ヶ月に1度程度は引っ張り出して用品の確認や備蓄食品や飲料水の賞味期限は確認するようにしたいものです。

さて、被災時に必要とされる用品には大きく分けて2種類あります。地震発生直後の避難行動に緊急的に必要なものと、余震が収まった後にライフラインと物流が復旧するまでの間の生活に必要なものとです。

【「在宅避難」という考え方】

東京都が発行して都民の全世帯に配布された「東京防災」というガイドブックがあります。
参考情報:東京都総務局『東京防災』

都民だけでなく多くの人びとにとって有益な情報が整理・集約されています。PCやスマホで見ることも可能なので、ブックマークしておきましょう。
スマホユーザーなら、アプリ「i広報誌」での配信を受けられるので、インストールしておくといいですね。

参考情報:産経新聞『行政情報アプリ「i広報紙」で『東京防災』の配信を開始しました。』

このガイドブックにも記載されていることですが、東京都では地震発生後の避難先について基本は「在宅避難」となっています。火災を避けるために大きな公園や広場へいったん避難した後、火災の危険性が無くなったら自宅の状況を確認しに行き、全半壊などで生活できる状態でなければ最寄りの小中学校などに開設された指定避難所へ。

自宅に戻って生活できるようであれば「在宅避難」をするようになっています。指定避難所に収容できる人数はそう多くありませんし、水や食料の備蓄量にも限りがあるからという点も大きいでしょう。

在宅避難を前提として考える場合、地震発生時はとにかく逃げる。余震が収まり火災の心配も無い場合は自宅に戻って生活再建となるので、まずは初動での避難時では命を守るための最低限の備えがあればよく、併せて別途自宅に避難後の生活用品を備蓄しておけばいいと考えることもできます。

【地震発生直後の避難行動に必要な用品】

まずは何よりも命を守る、生き残るということが最優先です。震災の瞬間を切り抜けることが出来たら、すぐに避難行動に移ります。必要なものは、今自分が何をしているか・どこにいるかで変わってきます。

◆在宅時なら:避難所へ行くために、スニーカー・懐中電灯・軍手・マスク・ホイッスル
◆外出時なら:いったん自宅へ帰るために、帰宅地図・飲料水・携行食・ポケット雨具・小型LEDライト・マスク

在宅時の場合、割れた窓ガラスや食器などが散乱する床の上を歩いて外に出る場合を想定して、歩きやすいスニーカーは室内に用意しておきましょう。「厚底のスリッパ」も良いとは言われますが、かかと部分が開いているので怪我をする可能性があり、移動中に濡れたりすると意味をなしません。

夜間行動も想定しての懐中電灯と、ガレキの間やホコリっぽい場所を移動したりことも多いため、軍手とマスクがあればまずは避難所へ向かうことができます。最低限、これらをバックパックなどに入れて玄関や窓際など出入り口付近に常備しておきます。万が一、閉じ込められた場合はホイッスルを使うことで外部に存在を知らせることもできます。

外出時の場合、徒歩で帰宅できる距離は10〜20kmだと言われています。人間の平均歩行速度や地震後の路面の状態などを考慮しても無理せず歩いていられる時間は長くても2〜3時間。

職場など自宅までの距離が10km以上の距離があるような場合は、無理に帰宅せずにその場に留まったほうが良い場合があります。帰宅可能な状況であれば帰宅地図を確認の上、無理のないペースで自宅を目指します。

飲料水は250〜500lmサイズのミネラルウォーターか利尿作用のあるカフェインを含まないもの。携行食としてはエネルギー源となる糖分を含む飴など(糖質ゼロやカロリーオフ系は不可)。いつものバッグの底や隅に入れておくと良いです。

また、甚大災害の状況で単身者・自宅に家族やペットなども居ない場合は、帰宅はせずにもっとも近場の避難所にいったん身を寄せるのも選択肢のひとつです。

いずれの場合でもポケットサイズやカードサイズの「ポータブルラジオ」があると情報収集に役立ちます。とりあえずFM放送が受信できればいいです。

地域ごとに「コミュニティFM局」などがあったりしますので、広域放送よりも自分のいる地域に関係する情報に触れやすくなります。AMラジオ局も送信所(親局)が地震などによって被災した場合は、FM放送を使って放送を続けることになります。

【避難所への道と、想定される生活を理解しておく】

災害の瞬間と直後の混乱を乗り切った後は、ライフラインが止まった状況での一定期間、いかに心身の健康を維持しながら生活していくかが重要です。自宅の状態確認や家族との合流後は、その後の生活再建の準備をしましょう。熊本地震では学校の体育館や福祉施設などを利用した避難所の使用と併せ、個人レベルでの「在宅避難」や「車中避難」をされる方も目立ちました。これまでの震災事例を知ることで、どう対応していけばいいのかという点が見えてきます。

避難所指定されている施設では食料や飲料水などの備蓄品が準備されていますが、状況によっては避難者全員にじゅうぶんに行き渡るだけの量が無いこともあります。熊本地震では、指定避難所が損壊等で閉鎖され使用できなかったり、満員のため新たな避難者を収容できないという状況が発生しました。

参考情報:毎日新聞『「指定避難所」32カ所閉鎖 建物の損壊などで』
参考情報:毎日新聞『続く余震、募る不安「避難所いっぱいで入れず」』

また指定避難所以外に避難した場合は、水や食料などの備蓄が不足したりそもそも無かったり、支援物資が届きにくかったりします。まずは最寄りとなる指定避難所を日頃から家族で確認・周知しておきましょう。

参考情報:Togetter『#熊本地震 指定避難所以外に避難している方々に支援物資が届かずTwitterに出すSOS』

避難所では大人数での集団生活となりますが、先の東日本大震災における避難所生活のリアルな記録として詳しいこちらの記事によると、食事に関しては人数が多いため調理に時間が掛かり、調理開始から食事が配られるまで2時間掛かったという話もあります。

参考情報:ハフポスト日本版『東日本大震災、体育館避難所で起きたこと』

避難所に入れた場合でも、生活上での様々な不自由が発生しています。食事の配給を受けるために最初に整理券をもらうために長時間並び、その後に食事を受け取るために改めて並ぶといった具合です。備蓄などをしていなかったためか「友人や実家から食料の差し入れがないとやっていけない」と本音を漏らす方もいたようです。

参考情報:河北新報『<熊本地震>避難所混乱 あふれる人募る不安』

熊本地震でクローズアップされた問題の1つに、初動で支援物資が迅速に集められたにも関わらず被災者の手元になかなか届かなかった点が挙げられます。

参考情報:BuzzFeed『なぜ、被災者に支援物資が届かないのか 県庁には大量の水と食料があった』

食料と水と言えば、被災時にはありがたい温かい食事の代表格的に備蓄食料の定番品的なイメージのあるインスタントラーメン。しかし食べるためには1食あたり450〜500mlの水と、それをお湯として沸かすための熱源と時間が必要です。

例えば避難者が100人生活をしている避難所で、全員にインスタントラーメンを提供するとしましょう。水を節約するために1食あたりに使う水の量を400mlにするとします。それでも、100人全員が温かいインスタントラーメンを食べるためには、40リットルもの水が必要で、2リットルのミネラルウォーターのペットボトルが20本必要です。それを沸かすために必要な熱源・燃料・調理時間と食べるまでに待つ時間も。

また、様々な事情によって避難所での集団生活そのものが難しい方々もいらっしゃるでしょう。何らかの持病やハンディキャップを抱えていたり、気難しいペットを飼っていたり。

東日本大震災以降、環境省はペットの同行避難を推奨していますが、震災直後の混乱した状況でパニックを起こしている他の避難者からペット同伴者が排斥されない可能性もゼロではありませんし、仮にペット同伴で避難所に入れたとしてもペットと飼い主ともに、何らかのストレスを受けるような事態にならないとも限りません。

こうしたことを鑑みても、被災時の初期における避難生活では自分と家族の生活はできるだけ自分たちで守る、という考え方と準備と行動が重要であることに気が付きます。災害の規模が大きいほど、政府や行政の対応は遅れがちになります。支援物資がすぐには届かないことも十分に想定できます。たとえ行政に苦情を訴えたところで、いま目の前で起きている状況を簡単に解決することはできないのです。

【支援物資の到着やライフライン復旧までの間の「在宅避難」の備えを】

避難所は安住できる場所ではありません。様々な形で傷ついた人たちが集まった上にプライバシーのほぼ無い空間での集団生活です。体調面・精神面などストレスも蓄積していきます。だからこそ、自分たちの避難生活はまずは自分たちで守ることが重要です。

普段からこういう視点での心構えを持ち備えをしておけば、巨大地震直後の初期避難さえ無事にできれば何とかなるということです。今から「在宅避難」の準備をしておきましょう。

では、震災後の世の中の状況を改めて見てみましょう。

・水道、電気、ガスなどの公共のライフラインが動いていない
・街なかの商店やスーパーやコンビニで買い物ができない
・水を潤沢に使えないため入浴や洗面、洗濯などが不便
・トイレがまともに使えない
・ゴミを気軽に捨てられない
・場合によっては生活空間に壁や屋根がない

これらと共通する状況は、第1回めでも触れた「キャンプ」です。管理されたキャンプ場よりも野営場や人里離れた場所でのアウトドアライフと似ています。標高の大きな山での冬登山などはさらに過酷です。

震災後の自宅が在宅避難が可能な状態であれば、その状況をアウトドアに見立てて生活をしながらライフラインや物流の復旧を待つという対応方法が選択できます。使える道具はキャンプ道具やアウトドアグッズ。すでにお持ちのかたもいらっしゃるでしょう。

生活空間となるテントやタープ、食事を取るための熱源・食器・調理器具、給水貯水グッズ、照明となるランタンやLEDライト、睡眠のためのシュラフ(寝袋)、荷物を運ぶためのキャリアーなど。不便な生活を便利にしたり楽しさに換えるための道具やノウハウもたくさんあります。

あとは日頃から食料と水・医薬品・育児介護用品など必要なものを自分なりにカスタマイズして備えておけばいざというときでも、避難所でのストレスを受けるであろう生活を避け、生活の質をある程度自分自身でコントロールできるのです。

そういった道具を今の日常生活の中、休日ライフなどに取り入れてみると新しい発見があるかもしれません。例えば半日〜1日、ちょっとした自然の中で食事を作ったり珈琲を飲む時間を追加してみるだけでもリフレッシュできたりします。慣れたら実際にキャンプに繰り出してみるのもオススメです。

そうした体験の積み重ねが自然と「在宅避難」への準備となり、いざ震災・避難生活という場面でも慌てることなく生活の質をコントロール可能です。そんな楽しみ方は、いかがでしょうか。

【バックナンバー】

・第1回・これまでの大震災を振り返る

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