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【コラム】大規模災害により出社が困難な場合、企業は?従業員は?

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2018年6月18日に発生した大阪府北部を震源とする最大震度6弱の地震は、交通機関の麻痺や火災や建造物の倒壊、水道管の破裂や電気・ガスなどのインフラの停止のみならず死傷者の発生と、各地で予想以上の被害を引き起こしました。

そんな中で散見したのが、交通網が寸断されるなどで移動の手段が制限されたりする中で「会社に出社を強制された」という話題です。

もちろん東日本大震災の経験を活かして自宅待機や在宅勤務などを推奨した企業もありますが、大規模災害時において企業はその状況と社員にどう向き合うかという点を考えてみたいと思います。

東日本大震災での個人的な経験

画像出典:Wikipedia:東日本大震災

2011年3月11日の午後2時46分。当時、編集部スタッフ「S」は(以降「S」と表記)は都内のとあるIT系の企業に勤めていました。この日はたまたま非番で自宅付近にいたときに、大きな揺れが襲ってきました。

街中の信号や看板などの電気が消え店じまいを始める店舗が出始める中、営業を続けているコンビニやスーパーには水や食料を求める人達が早々と行列を作り始めていました。

国内電話網が制限を受ける中、幸いにもインターネットは生きていました。

このとき、日米間のネットインフラの根幹となる海底ケーブルの多くが切断され危機的な状況にありましたが、関係者の尽力によりバックボーン・ネットワークが迂回されたことや、重要な情報源やコミュニケーション手段となったTwitterにおいてもTwitter社内で状況を知った技術者が、日本向けのサーバーを増強してサービス停止を回避してくれたことを覚えている方も多いでしょう。

ともかく、ネットは生きていました。被災地からはSOSが届き、それを受けた人たちが支援物資をかき集めてその日のうちに・また翌日には日本中から被災地へと向かいました。

「S」の自宅においては食器類が落ちて割れたり書棚が倒れて床に散乱。

都内に出向いていた家族は無事であったものの、帰宅困難者となっていました。ただし電話不通により連絡は取れず、事前に緊急時の連絡手段確認を怠っていたために家族と合流できたのは翌々日あたりとなりました。

勤務先からの出社命令

震災翌日は当時の勤務先はいったん丸1日、臨時休業となりましたが、メールで次のような趣旨の業務命令の連絡が届きました。

「震災で電車が止まっているのは承知しているが、休業明けの明日以降は通常どおり出社するように。通勤手段は問わない」

「S」が住む地域でも鉄道が止まり、最寄りの私鉄においては最長で2週間近くは全線復旧しなかったように記憶しています。

当時「S」が担当していた業務上のプロジェクトは進捗的に佳境ということもあり、会社としては業務を停滞させたり売上低減につながるような事態があってはならない、という判断だったのでしょう。

IT系の仕事に従事していたこともあり、仕事そのものはいわゆる「テレワーク」や「リモートワーク」と呼ばれる在宅勤務が可能な部類です。しかし会社として承認している勤務形態ではなかったため、業務命令ということで従うことにしました。

往復60kmの自転車通勤を敢行

勤務先までは電車で片道1時間以上。しかし頼みの綱の電車は止まったままか、利用できない区間のみが動いている状態。物流が止まっていたためガソリンスタンドは休業、自家用車どころかバスもタクシーも利用できません。

そこで自転車を利用することにしました。片道約30km・往復60kmです。手持ちのクロスバイクを通勤用とし、朝5時に起床して大渋滞の車道を神経をすり減らしながら走り、会社で普通に仕事をした後に夜道を30kmを走って帰宅。

もともとロードバイクでサイクリングを嗜んでいたため体調を崩すほどのダメージは受けませんでしたが、サイクリングでは自転車用の軽装備で主にサイクリングロードを走り、走った先で仕事をすることはありません。

同じ距離を走るにしても仕事に必要な荷物を背負い、車と一緒に車道を走るのはなかなかしんどいものがあります。

また、走って出社したタイミングではそれなりに体力気力を消耗しているので、業務中に十分なパフォーマンスを発揮いづらいものです。

体感できる余震も続いており、また居住地域には原発事故による放射能プルームが到達したと言われたタイミングでも自転車通勤をしていましたので、そうした不安を抱えながらの自転車通勤でしたが、最寄りの私鉄の全線復旧と共に自転車通勤を終了しました。

ふつうの自転車通勤とは気持ちが違う

日常において、自転車通勤をおこなっている人たちは多いです。通勤にロードバイクなどのスポーツ車を使い、いわゆるレーサージャージなどを着込んで快適に通勤されている方も見受けます。

ただ、やはり自転車通勤に適した状況と走行距離というものがあります。自分から好んで楽しく快適にジテツウできることが重要で、距離の目安は片道10km程度と言われます。

ましてや、日常が崩壊しかけた大震災時に業務命令で出社を強要され、目安を大幅に超える距離を走らないと出社できない状況は極めてストレスフルです。

そのような状況では仕事に向き合うモチベーションやパフォーマンスは間違いなく低下しますから、結果的に業務貢献できないことにつながります。

大震災という状況下における業務遂行のあり方として、他にもっと良いスタイルがあるのではないかと考えさせられる経験でした。

災害時だからこそ現場の最前線で奮闘する仕事

とは言え、大きな災害では電気・ガス・水道・各種通信網などが配管やケーブル破損、設備障害などにより使えなくなることが多いことはご存知の通りです。

便利な社会インフラに支えられた私たちの生活は、こうした仕組みが無ければ成り立ちません。

また被災した現場で起きる火災への対応や破壊された建造物への対処、治安維持、被災者救助なども極めて重要な仕事です。現地の復旧・復興も急務となります。

もちろんそこは極めて危険な状況となりますが、仕事として職務として対応する人たちがいます。

大災害だから出社が困難であることを考慮すべき仕事と、大災害だからこそ現地に急行する仕事とは、双方がそれぞれ尊重されるべきでしょう。

特に後者においては、仕事を遂行する際には当然ながら大きなリスクを伴います。場合によっては自らの命を失う危険すらあります。しかし社会において無くてはならない仕事です。そのような職務に就く人々には相応の報酬や待遇、社会的な地位と信頼などを以て報いるべきでしょう。

企業側として検討すべき、従業員の安全と事業継続の両立

交通インフラが復旧していない中での無理な出社要請は、従業員の安全確保の観点からみるとリスクがあると考えられますが、他方で企業活動・経済活動の継続が災害からの復旧には必要であることも事実です。

特に東日本大震災後は、災害時・被災後における事業継続の重要性が強く意識されるようになっています。

参考になる資料として、内閣府が公表している災害時における「事業継続ガイドライン」があります。

このガイドラインは災害時における事業継続マネジメントの普及を目指したガイドラインですが、その中で社員の出勤に関して、「地域との共生と貢献」という項目の中に、次のような文言が見られます。

・被災後において、企業・組織が応急対応要員以外の従業員に当面の自宅待機を要請すると、自宅周辺の人命救助、災害時要援護者の支援などに貢献する機会を作ることにもなり、都市中心部の場合には、混雑要因の緩和にもつながる。

・特に大都市圏では、従業員に無理な出社指示を出すと、救援活動の交通への支障、水や食糧の不足、トイレやゴミの対応の困難などが予想される。

無理な出社要請は、従業員の安全確保の問題以外にも、救援活動の交通への支障など社会的な問題に引き起こす可能性があります。

こうした点からも災害時の出社要請については慎重な判断が求められるのではないでしょうか。

他方で企業は事業を継続することも求められています。この両者をいかに両立させるかが企業にとっての課題と言えます。

近年は「ワーク・ライフ・バランス」や「ワーク・ライフ・インテグレーション」といった考え方が広がっており、業種や職種にもよりますが無理なく業務を遂行できる柔軟な就労形態の1つとして、テレワークやリモートワークと呼ばれる在宅勤務制度の導入が広がっています。

在宅勤務制度は、災害時における社員の安全と事業継続を両立できる1つの方法にもなり得ます。

在宅での業務が可能かどうか、その際に必要な業務環境は何か、業務管理・評価をどうするかなど検討すべきことは少なくありませんが、在宅勤務制度をはじめ、従業員の安全と事業継続を両立するための方策を早急に検討することが企業に求めらているといえるのではないでしょうか。

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