はじめに結論
トイレットペーパーやティッシュペーパーなどの「衛生用紙」は、国内製造で在庫も十分にあります。フリーマーケットアプリやオークションサイトで異常なまでの高額転売や、安値に見せかけての高額送料での販売などが散見されますが、
『そうした高額販売品を購入する必要は一切ありません』
マスクと異なり、しばらく待てば在庫は復活します。直近でどうしても不足している場合は、特にトイレットペーパーの場合はあえて使用せず、トイレ使用後は風呂場でシャワーを使って洗い流すことが、もっとも簡単で衛生的です。
シャワーで洗い流した後は、シャワーヘッド自体を石鹸などで洗い清めましょう。
メーカーなど製造側の見解は?
日本製紙連合会・日本家庭紙工業会からの「お知らせ」が2020/02/28付で発表されています。
要点をまとめると、
・トイレットペーパー、ティシューペーパーについては殆どが国内工場で生産
・トイレットペーパー、ティシューペーパーの供給力、在庫は十分にある
・新型コロナウイルスによる影響は無く、現在も通常通りの生産・供給体制
・原材料調達は中国に非依存、製品在庫も十分にある
とのこと。生産者側がきちんと情報を公開していますので、現状の品薄状況は不安を感じて買いに走った人びとが一時的に増えただけのものです。
マスクについては「全国マスク工業会」の専務理事のかたから「品薄解消の見通しは立たない」との見解が出ていますので、マスクの品薄状況とはまったく異なります。(記事キャッシュはこちら)
Q. トイレットペーパーは中国からの輸入に依存しているの?
A. 依存していません。
ネットのSNSで流れた「トイレットペーパーは製造元が中国で製造が止まったため」というデマがかなり拡散したようです。トイレットペーパーやティッシュペーパーなどの衛生用紙のほとんどは「日本国内産」です。
ではここで、経済産業省のwebサイトで公開されているトイレットペーパーを含む衛生用紙の実態調査に関する報告書を確認してみましょう。
『平成27年度製造基盤技術実態等調査・衛生用紙産業における海外実態調査報告書』
(株式会社矢野経済研究所作成)
※衛生用紙=ティッシュペーパー、トイレットペーパー、タオルペーパー等
いわゆる「お役所の報告書」であるため、すべてを読み込むのはなかなか骨の折れる作業です。
この報告書の中から、重要と思われる情報を抜粋してみます。
■日本国内の衛生用紙市場は、年間およそ175万tの生産量
・トイレットペーパー約105万t
・ティッシュペーパー約45万t
・タオルペーパー等約25万t
衛生用紙メーカーは大小含め約100社、特に中小メーカーは静岡県富士市およびその周辺に集中
(なお国内における衛生用紙の一人当たり消費量は約14kg/年)
■日本における中国からの衛生用紙の輸入量は、年間およそ10万1,156t
・トイレットペーパー:31,901t(3万1,901t)
・ティッシュペーパー・タオルペーパー:69,255t(6万9,255t)
計101,156t(2014年における実績)
また中国だけでなくインドネシアや米国などからも輸入しており、2014年の衛生用紙輸入量は16万t超。年々その量は増加する傾向にあります。
ともあれトイレットペーパーだけ見た場合、日本の国内製造が約105万tであるのに対して中国からの輸入量は約3万tと、中国製造のトイレットペーパーにはほとんど依存していないことが判ります。
Q. トイレットペーパーの原材料がマスク増産のために回される?
A. 回されません。
トイレットペーパーとマスクは、使われている原材料が異なります。
・トイレットペーパーの原材料:木材由来の製紙原料であるパルプ」や使用済みの紙や牛乳パックを裁量した「古紙」。
・主に使い捨てマスクの原材料:不織布(繊維類をシート状にしたもので紙などを除いたもの)
マスクの原材料はこのとおり「不織布」で、代表的な原料としてはポリエステルやポリプロピレンなどです。
<参考情報>
・日本製紙連合会「パルプ材」
・九州製紙株式会社「トイレットペーパーが出来るまで」
・丸富製紙株式会社「牛乳パックをトイレットペーパーにリサイクルするほど、CO2の削減につながる」
・exciteニュース「古新聞はトイレットペーパーに生まれ変わらない?!」
・ジェイソフト株式会社「不織布(ふしょくふ)をご存知ですか?」
・ユニチカ不織布事業部「不織布とは」
Q. でも、どうしてもトイレットペーパーが入手できなくなったら?
冒頭の結論でもご紹介しましたが、風呂場で「シャワーで洗い流す」がもっとも簡単で現実的です。シャワーで洗い流した後は、シャワーヘッド自体を石鹸などで洗い清めてください。
大震災などで上下水道が止まっていない場合は、水道を活用しましょう。無理に高額転売されているトイレットペーパーを買う必要は一切ありません。
またこれを機会に災害対策としての「備災訓練」として、古新聞紙などを揉みほぐして柔らかくしたもので拭き取り、使った古新聞紙を防臭袋などに入れて可燃ゴミとして処分する、といった方法もあります。
編集部では、災害対策として「野外で簡易トイレを “大” を含めて実際に使う」という訓練をやっています。ご興味のあるかたはこちらの記事もご覧ください。
まとめ
「デマから生じた現実」として、トイレットペーパーやティッシュペーパーなどが入手困難になっている状況は実際に起きており、そうした状況で困っている人々の弱みにつけ込むかのような高額転売が目に付きます。
しかし、そこで思考停止する必要はありません。今までのように「トイレ内のワンストップ」で用足しから最後までを対処できない若干の不便さはありますが、そこは工夫で乗り切りましょう。「お風呂場」という強い味方がついています。
さらに災害時を想定した「備災訓練」として、あるもので何とかするという発想への切り替えもありです。
いずれにせよ、トイレットペーパーやティッシュペーパーなどの衛生用紙のほとんどは国内製造で、生産能力は通常どおり。品薄状況はいずれ解消されます。それまでは、発想の転換・機転を利かせた対応で乗り切りましょう。
最後に「Q. トイレットペーパーの備蓄は必要ないの?」
A. 災害対策としては必要です
新型コロナウイルスの感染拡大とはまったく別の話として、そもそもの災害対策としてのトイレットペーパーの家庭備蓄は必要です。
これについては、経済産業省からも継続的に呼びかけがおこなわれています。
前述の通り、国内の衛生用紙メーカー約100社のうち、特に中小メーカーは静岡県富士市およびその周辺に集中しており、この地域では国内生産の約4割のトイレットペーパーが生産されています。
今後30年内の発生が予測されている南海トラフ巨大地震など、大きな災害が起きた場合は増産体制が取られることになっていますが、それでも1ヶ月程度の混乱が予想されるため、普段から各家庭において日常用とは別に、1ヶ月分のトイレットペーパーの備蓄が推奨されています。
■経産省資料による『トイレットペーパーの備蓄が必要な3つの理由』
1. 阪神・淡路大震災において、被災者が最も困ったのは食料でも衣服でもなくトイレ不足
2. 東日本大震災では、被災地のみならず全国的にトイレットペーパー不足が発生
3. トイレットペーパーの約4割は静岡県で生産→東海地震等が起こると深刻な供給不足となるおそれ
新型コロナウイルスの感染拡大による買い占めや品不足のパニック的な状況を見て明らかなことは、今後の大震災発生時にも同じことが繰り返されるということです。
その際は、不足するのはトイレットペーパーだけに留まりません。電気・ガス・水道などの生活インフラが停止し、備蓄していない場合は水や食料なども手に入らなくなるため、より大規模なパニックとなる可能性があります。
日本は活火山も多く地震活動も活発で、近年は毎年のように豪雨や台風による大きな被害が出る自然災害大国でもあります。災害などが起きていない平時から、いざというときのための備蓄は必ずおこなっておきましょう。
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