大震災の発生と崩壊した日常
1995年の阪神淡路大震災が発生したのが厳冬期の1月17日。2011年の東日本大震災は、東北ではまだ雪の残る3月11日。東日本大震災では関東でもまだまだ寒いなか電気もガスもストップし、夜には気温も低下。夏も冬もエアコンに頼りきりだった編集部スタッフは当時、たまたま入手していた「石油ストーブ」にかなり助けられた記憶があります。
地震発生直後に停電、室内のコーヒーメーカー等が落ちて床に散乱したガラス片などを除けつつ外に出て、まず交差点の信号灯などがすべて消えていることに一抹の不安を感じました。鉄道も止まっておりこれは一大事だと、まずは水と保存可能な食糧、電池などの確保に動いたものです。
スーパーやコンビニにはすでに近所の人々が押し寄せていました。早々に店じまいをするスーパーマーケット、停電でレジが動かないのに計算機を使って暗くなるまで販売と精算を頑張っていたコンビニ。数少なくなった商品を店内で奪い合う人々もいれば、譲り合ったり買った後に分け合ったりと様々な人間模様が展開されていました。
夜を迎えても停電は続いたままで、阪神淡路大震災や新潟県中越地震などを経験していなかった身としては、街灯もすべて消えて時おり通過する自動車のヘッドライト程度の灯りしか無い暗闇は生まれて初めての体験でした。
東北でその瞬間に何が起きていたのかを知る術はあまり無く、暗い中、自転車用のLEDライトの灯りを頼りに石油ストーブを点けて暖かくなった時に少し気持ちが落ち着きました。とりあえず冷蔵庫内の生鮮食品だけは先に使ってしまおうと、買ってきたミネラルウォーターと室内にあった調味料とともに鍋に入れ石油ストーブで調理。
それまでの日常が崩壊し、不安を感じ始めていた時に使った石油ストーブの暖かさは今でも鮮明に思い出します。「偶然ながらも備えておいて良かったモノ。」それが、この石油ストーブでした。地震が増えている昨今、寒い時期に被災したくはないですが、天災は人間の都合を聞いてはくれません。必要なのは、備えること。今回はそんな「石油ストーブ」を備災グッズとして検討します。
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— ITOITO-STYLE編集部 (@ITOITO_STYLE) 2017年12月3日
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石油ストーブ本体の検討
石油ストーブには大別して2種類、「反射型」と「対流型」があります。反射型は昭和世代なら特にお馴染みかもしれない四角いタイプ。燃焼室の後ろに熱反射板があり、ストーブの前面を温めるタイプ。写真は「対流型」ストーブ2種類。対流型は燃焼室の周辺を均等に暖めます。
写真右側はコロナの対流型。かなりの広さの室内でも対応できるタイプで、高火力で一気に室内を暖めてくれます。重量があるので室内据え置きで使うことに適しています。
写真左側はトヨトミの対流型「レインボーストーブ」。コンパクトで燃費も良く、持ち運びができるサイズと重量なので冬キャンパーにも人気にストーブです。
(なお撮影のためデスク上に置いていますが、実使用の際には床に置いて壁などからは十分距離を保ちましょう)
画像出典:コロナ・SX-E2916WY
被災時や夜間を想定して、真っ暗な室内での利用シーンです。熱源として火力は右側のコロナの大型の対流型のほうが優れますが、一気に周囲を暖めることができるぶん時間あたりの灯油消費量は多め。寒い地域などで広い室内を早く暖めたい場合に威力を発揮します。燃焼室の窓は小さめなので、灯りとしてはまずまずの光量です。
左側のトヨトミのレインボーストーブは、コンパクトなぶん燃費は良好。燃焼室が耐熱ガラスで覆われているため灯りとしての機能性もしっかり確保されています。暖かさに関してはコロナのストーブに軍配が上がりますが、持ち運びしやすいので機動性に優れ秋冬春のアウトドア・アクティビティに利用できます。
サイズ感を見るため、双方のストーブを並べた間にカセットコンロ用のガスボンベを置いてみました。こんな感じです。
コロナの対流型は、とにかく暖かい。南関東以西であれば、真冬の雪が降る日でも室内でこれを高火力で使えば半袖短パンどころか全裸でも過ごせる暖かさ。8〜10畳程度の室内であれば、程よい暖かさにするためにかなり火力を絞ることになるほどです。
北関東や東北以北であれば、やはりこの中・大型の対流型でしょう。近年はエアコンの性能向上により、北東北や北海道でも石油ストーブやファンヒーターよりエアコンを選ぶご家庭も増えているようですが、電気がストップした状態でも使えるのはやはり心強いもの。
関東以西であれば、オススメしたいのはこのコンパクトな石油ストーブ。高さは50cm以下です。オール電化のマンションなどでも、備えとしてクローゼット内に置いておくといざという時に役に立ちます。
お子さんのいらっしゃるご家庭なら、秋冬のお子さんのスポーツ練習などの際に気軽に持って行くこともできますよ。
トヨトミのレインボーストーブの魅力の1つは、燃焼室ガラスに反射する炎がレインボーカラーに見える点。暗い室内や寒い時期のキャンプの夜には、これがさらに美しく際立ちます(本ページTOPの写真参照)。
寒い日にレインボーストーブに点火し、この炎を見ながら珈琲やワインを飲むのは癒される時間です。
夜間の灯りとしても威力を発揮します。東日本大震災でも、石油ストーブが役に立ったという話しは枚挙にいとまがないほど。この対流型だけでなく反射型ストーブも同様です。
備災だけでなく秋冬春にアウトドアを楽しみたいなら、対流型のコンパクトなストーブがオススメ。簡単に外に持ち出せて、足元から温かくしながら楽しむことができます。星空が綺麗なのは冬。ストーブの上に載せたヤカンでお湯を沸かして珈琲を飲みながら、星空を観るという楽しみ方もできます。
反射型ストーブがこの対流型ストーブと異なる点は、その構造上ストーブの前面しか温めることができない点です。もちろん前面の暖かさは格別ですが、このような利用シーンにおいては対流型の利用が適しています。
しかし周囲を暖められる対流型ストーブの唯一のデメリットとしては上方へ抜けてしまう熱があること。しかし、いくつかの工夫でそのデメリットを解消できます。こちらは後述します。
アウトドアと言ったら冬キャンプでも活躍するのが石油ストーブ。編集部スタッフも冬キャンプでレインボーストーブやカセットガスストーブを愛用中。
灯油の不完全燃焼時は一酸化炭素中毒の恐れがあるので、COチェッカーは欠かしてはならないことと、灯油燃焼時には水蒸気が発生し結露の原因にはなるので、(自己責任にはなりますが)テント内で使う場合結露対策としてベンチレーションの確保と換気、そして発生した結露を拭き取る準備はしておきましょう。
オプション:収納バッグ(別売)
トヨトミのレインボーストーブなら、使用しない場合はこのようなマルチ収納ボックスに収納しておくことができます。snow peak版レインボーストーブ用のケースもありますが、安価な多目的収納ボックスでジャストサイズのものがあるのでこちらもオススメ。
収納してみたところ。まだ収納袋のフタはしていません。
フタをして完全収納。まるで専用収納ケースと思わせるくらいのジャストフィット感ですが、純正品よりリーズナブルに入手できます。
オプション:「エコファン」(別売)
対流型ストーブが唯一反射型とは異なる点は、熱気が横方向よりは上方向に行きやすいこと。それを補うためにオススメしたいのは、この「エコファン」と呼ばれるファン(別売)。
ストーブの熱を電気に換える「ペルチェ素子」を使うため電気は不要、ストーブが暖まれば自動的に回転を始め、上昇する熱を横方向へ温風として送ってくれます。
構造は至ってシンプル。装置自体が温まることで上部ヒートシンクと下部の台座に挟まれた部分に装着された「ペルチェ素子」で発電がおこなわれ、その電気でモーターを回してくれます。電力はストーブの温度に比例し、火力を上げれば回転数も上がります。
モーター部分近影。部品むき出しの無骨なルックスですが、このシンプルさがいいですね。
使い方は簡単。ストーブの上に乗せるだけ。ストーブが暖まれば自動的に回転を始めます。消火すれば、やがて回転が停止します。
編集部ではすでに長期に渡って連続使用していますが、通常使用においては加熱によってモーターが破損する気配はありません。エコファンの回転中は、上方に昇る熱気はあまり感じず、ファンから横方向にすべての熱気が吹き出してきます。対流型ストーブをよりパワーアップしてくれる便利アイテムです。
なおエコファンが壊れるとすれば、それは唯一の可動部品であるモーターです。通常使用においては初期不良でない限りは壊れにくいようですが、引っ掛かって落としてしまったりするとモーターが内部で破損し回転しなくなることがあります。そんな時でもスペアのモーターを販売しているショップがあるので安心。
編集部でも一度、ストーブ上のエコファンに引っ掛かって誤って落としてモーターを破損しましたが、福島の「薪ストーブのありがた屋」さんから無事にスペアモーターを取り寄せて修理しています。必要な工具は細い六角レンチと半田ごてのみ。六角レンチはスペアモーターに同梱、半田ごてはダイソーさんなどの100円ショップで500〜600円程度で入手可能です。
冬キャンプでレインボーストーブにエコファンをセットしたところ。温める対象方向が決まっているなら、エコファンを使うことで対流型の欠点はほぼ解消されます。
そしてこの写真をよ〜く見ると、燃焼室のガラス内にメッシュ状の金属筒が。そして判り難いですが、その背後には金属板がセットされています。そう、これぞレインボーストーブの熱を反射型並に最大限に引き出すカスタマイズをしたものです。
その方法は、こちら。
【編集部】#冬キャンプ ではユーザーの多い #レインボーストーブ を反射型に改造してみました。ガラス外筒内部に市販のステンレス製の台所排水口のメッシュゴミ受け、リフレクタはホームセンターで手に入る250㍉サイズのステンレス板。簡単な改造ですが、ノーマルと比べてかなり暖かくなります。 pic.twitter.com/1mYdXFfhpH
— ITOITO-STYLE編集部 (@ITOITO_STYLE) 2017年11月18日
まず、より暖かさを引き出すために一般的な反射型ストーブに使われている燃焼室のメッシュ構造を作り出します。使用するのは、ステンレス製の「排水口のゴミ受け」。編集部スタッフが選んだものは、こちら「三栄水栓 『排水口のゴミ受け』 シンク用 流し排水栓カゴ H650AF」です。
多少の遊びはありますが、レインボーストーブのガラス筒内にほぼジャストイン・サイズ。持ち手部分を外して逆さまにしてそのままガラス筒内に置きました。
次に、ホームセンターで入手可能な250mmサイズのステンレス板を250mm x 170mm程度にカットして丸みを付けたら燃焼室の背後にセット。いい感じに収まります。
この改造に関する詳しい記事を「冬キャンプに人気の「レインボーストーブ」を簡単に暖房性能アップ!」として公開していますので、ぜひこちらも御覧ください。
反射型レインボーストーブを真横から見ると、こんな感じです。レインボーな輝きとの引き換えにはなりますが、実用度は上がります。これに #エコファン を載せればパーフェクト。 pic.twitter.com/uUqmNQzlwO
— ITOITO-STYLE編集部 (@ITOITO_STYLE) 2017年11月18日
レインボーストーブに関しては、このエコファンの搭載と反射型化によって暖かさが圧倒的に変わってきます。なお改造するとメーカー保証は受けられなくなるので、実行される場合は自己責任となりますのでご注意ください。
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石油ストーブのメリットとデメリット(リスク)
◆メリット
・電気やガスが止まっても、独立した暖房・灯り・調理用熱源としてマルチに活用できる
・燃焼中に水蒸気を発生させるため、電気暖房に比べて加湿の必要性が少ない
・電気暖房に比べて湿度が下がりにくく、体の芯まで暖まる
・温風を吹き出さないためホコリが舞いにくい(アレルギー対策)
・構造がシンプルなため、壊れにくい
◆デメリット(リスク)
・燃焼中にストーブ自体が転倒したりすると、火災が発生する可能性がある
・燃焼時に二酸化炭素が発生するので1時間に1〜2回程度換気が必要(不完全燃焼による一酸化炭素中毒の防止)
・定期的な燃料(灯油)の補充が必要
・消火時に独特の臭気が発生する(製品による)
・タイマーを使った点火・消火ができない
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石油ストーブは、これまでに発生した震災における火災の発生原因の1つにも挙げられていますが、それは電気やガスも同様です。電気ストーブやドライヤー、ガスコンロ使用時の地震発生で慌てて避難し、電源スイッチやブレーカー、ガスの元栓をOFFにしなかったために復旧時に火災が発生しています。
「文明の利器」ならどのようなものにもメリットとデメリットやリスクがそれぞれ共存します。そうしたものをしっかり理解して使うようにしたいものです。意外と読まれないことが多いと思われる「取扱説明書」ですが、改めて確認しましょう。
冬に被災した場合に電気やガスなどの都市インフラが途絶えても、燃料の灯油さえ常備しておけばスタンドアロンで使えるのが頼もしい石油ストーブ。体の芯から温まる熱源としてだけでなく煮炊きや湯沸かしにも灯りにもなり、人々が集える場にもなります。
コンパクト・タイプの石油ストーブならアウトドアにも利用可能。冬キャンプを楽しんでおられるかたも多いと思いますが、都市部や人里から離れたキャンプ場での生活は、まさに電気もガスも無いサバイバル空間。そんな環境で利用する石油ストーブからの「熱」は、エアコンや電気・ガスヒーターには無い独特の暖かさとLEDライトからは感じられない温かみある明るさで、身体だけでなく心まで暖めてくれます。
近年生産・販売されている石油ストーブ類は、消火時の臭気を抑える機能や地震の揺れを感知して自動消火する機能、灯油タンクが構造的に2重化されて転倒しても灯油が漏れにくくなっているものが大半と、火を使う前提の安全性も十分配慮されています。
上記のレインボーストーブにもその機能は搭載済み。冬の被災に備えるためにも、このタイプのコンパクトな石油ストーブは一家に一台はマスト・アイテムです。冬〜春キャンプを計画中の方には、併せて「エコファン」もオススメ。
オール電化のマンションで火気厳禁というご家庭もあるかもしれませんが、いざという時の備えと冬キャンプなどの楽しみを兼ねた石油ストーブ、これを機に用意してみませんか?