トイレは被災時の最大の課題
被災時の最大の問題、それは「水洗トイレが使えなくなる」ことです。熊本地震の避難所においても、被災者が避難当初にもっとも不便だと感じたのが「トイレ」でした。公共(公衆)トイレでは水が流れないところに多くの被災者が利用したため、便器内は大小便の山で溢れてしまいました(東日本大震災でも同様の問題が発生しました)。このような場面では感染症の発生など衛生上の問題も発生します。
仮設トイレもすぐに設置されるわけではありません。東日本大震災では、地震発生から3日以内に仮設トイレが設置された自治体はわずかに3割程度でした。設置されても長蛇の列ができます。しかし排泄は生理現象、待ってはくれません。結果、トイレに行く回数を減らそうと水分の摂取を減らしたり食事を控えたりして体調を崩す人たちも出てしまいました。さらに仮設トイレはまだまだ和式が多く、身体にハンディのある方や高齢者にとっては利用が容易ではありませんし、女性にとっては特有の問題もあります。
戸建て住宅やマンション・アパートの場合は、排水管が破損していないことが確認できればお風呂に汲み置いた水などで流すことは可能ですが、その水もいずれは無くなります。排水管が破損している場合はそもそも水を流すことができません。最近は下水が直結しているマンホールをトイレとして利用する取り組みもあり国交省がマンホールトイレの整備に助成金を出すなどの動きがありますが、まだまだ不十分です。
そこで重要になってくるのが各自・各家庭での「簡易トイレ」の準備です。何を備えればいいか、どう使えばいいか、特にニオイの気になる大便の処理はどうすればいいのか。そんな疑問を徹底検証していきます。今回は「前編」として、備えておくべき用品をチェックします。
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今回検証してみた簡易トイレの便器部分は、こちらのアイリスオーヤマの簡易トイレBTS-250。トイレ本体と、処理袋 +凝固剤からなるトイレ処理セット5回分があらかじめ含まれています。
そして唐突に現れる「着替え用テント」。停電時は換気扇が使えないため、「ニオイ」がトイレ内にこもってしまいます。断水して水洗トイレとして使えない場合は、むしろこうした着替え用テントをベランダや玄関外に設置して中に簡易トイレを置いて使う、というのも良い選択肢です。
■簡易トイレとして使用できる素材を個別に調達した場合
便器にセットする黒いビニール袋はドラッグストアで購入し、尿などの水分を吸収させる凝固剤(高分子吸収材)も大容量の1.5kgパックを個別に購入、大便処理時のニオイ問題を考慮して防臭機能を備えたビニール袋も別途調達しました。
「前編」となる今回はいったんここまでとなります。簡易トイレも様々な種類が販売されているので、備災・防災用として購入した時点で安心してそのまましまい込む前に、1回は実際に試用してみることをオススメします。
今回検証してみて感じたことは、簡易トイレを実際に使用する際には「羞恥心(恥ずかしさ)」というメンタル的な要素がひとつのハードルになるということ。一人暮らしの方などの場合はそうでもないと思いますが家族がいる場合、今まではトイレという個室の中で自分ひとりで完結していた排泄という行為が被災時の場合は「排泄物の後始末(燃えるゴミとして保存しておく)」という作業が必要になるため、まずその「ちょっとハズカシイ」という気持ちを捨てることが必要になります。
だからこそ、簡易トイレを購入する際には少し余分に調達して、普段の生活の中で家庭内防災訓練として、実際に使ってみる(大小便をしてみる)ことを強くオススメします。もっとも、実際の被災時にはそんなことを言ってられない状況でもありますので、そうした懸念は杞憂かもしれません。
さて「後編」となる次回は、「凝固剤(高分子吸収材)」の利用にフォーカスした記事をお送りする予定です。凝固剤1包でどの程度の量の尿の吸収に利用できるのか、また凝固剤は大便の処理に使えるのか。そもそも個人や家庭レベルでは、被災時に大便を衛生的に効率よく処理するためにはどのように扱えばいいのか。などなど「被災時のトイレ問題解決」の本質的な部分を、実験と併せて徹底検証した内容をお届けします。
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