天候不順や大災害で一気に不足する野菜
近年、夏の猛暑や酷暑による影響や秋の台風による畑の浸水被害などで、野菜価格の高騰が目立つようになってきました。
2017年の夏には、東日本を中心に長雨や日照不足などの天候不順が続き夏野菜が値上がり傾向になったと思ったら、10月には台風の上陸と11月中旬には強い寒気の南下により野菜の生育が遅れ、出荷量が少ない状況となりました。
この時、例年にくらべて冬野菜の価格が大幅に高騰、大根は2.7倍・白菜は2.4倍の価格となり、翌年の3月頃まで高値で品薄の状態が続いたことを覚えている方も多いでしょう。
天候不順だけでなく、大震災などの災害時にも野菜は一気に不足します。熊本地震や東日本大震災の避難所などでは、食事がパンやインスタントラーメンに炊き出しのオニギリなど炭水化物が中心となり、野菜類がまったく摂れない状況が続きました。
しかし生鮮品である以上、生野菜を長期間備蓄しておくことはなかなか難しいものです。雪国であれば、冬の間に野菜類を上手に保存するノウハウもありますが、都市部に生活している場合はそうもいきません。
野菜を長期保存する場合、日本では古来より塩・ぬか・醤油・味噌・糀などを使って「漬け物」を作ってきましたが、塩分が高いため摂取量は少なくせざるをえません。備蓄用途となると、野菜類の選び方が重要になってきます。
そもそも野菜ってどうやって備蓄できるの?
長期備蓄できる野菜類を整理すると、次のようなものになります。
① 瓶詰め野菜(ピクルスやザワークラウト)
② 乾燥野菜、乾燥海藻(切り干し大根や乾燥ワカメなど)
③ 野菜ジュース
④ 常温保存紙パック野菜(ミックスベジタブル、トマト)
⑤ フリーズドライの野菜スープ類
① 瓶詰め野菜(ピクルスやザワークラウト)
編集部のイチオシはこの「ピクルスとザワークラウト」の瓶詰めです。ピクルスはおなじみの酢漬け野菜、ザワークラウトはドイツ発祥のキャベツを乳酸発酵させた塩漬け。
被災時に野菜が手に入らはい状況が長引いた際には、このお酢を使ったピクルスでの疲労回復や、乳酸発酵食品であるザワークラウトの整腸作用などが期待でき、何より「野菜を長期備蓄できる」という点ではかなり有望です。
ピクルス・ザワークラウト共にご家庭で手作りできますが、市販の瓶詰めはもっとも手軽に入手できて品質も安定していますので、多めに備蓄する場合は市販品もオススメです。
価格は安いものからそこそこのものまでピンきりですが、編集部スタッフの経験的には、
・お手頃価格のものは固形分容量が少なめ・水分(汁気)が多め・塩分強め
・そこそこ価格のものはフタの直下までギッシリ詰められている・味はいい塩梅
という傾向があるように感じました(あくまで編集部スタッフの個人的な感想です)。
■ピクルスやザワークラウトの注意点
ピクルスもザワークラウトも基本的には保存食かつ漬け物ですので塩分があります。
ピクルスの場合は着け汁は飲用しないことと、ザワークラウトの場合は食べる直前に塩分を含む水分を適度に絞ってしまえば、そのぶん塩分を減らして摂取することができます。特にザワークラウトを絞ったものは、スープの具などにも活用することもできます。
② 乾燥野菜、乾燥海藻(切り干し大根や乾燥ワカメなど)
野菜や海藻を乾燥させたものも、備蓄用野菜としては優秀です。乾燥野菜も、近年は根菜や葉物など様々なものが手に入るようになりました。地域の農産物直売所に行けば、農家手作りの切り干し大根なども販売されています。
乾燥海藻の代表格はなんと言っても「乾燥ワカメ」。水や湯で戻すと乾燥状態の10倍以上になるので保存性も良く、繊維質も豊富で食べ過ぎなければヘルシーな食材です。
乾燥した野菜や海藻は、国産品は比較的高額帯に入りますが、輸入品に抵抗が無ければ安価に購入できるものもあります。
こちらは編集部で作った、ピクルスと乾燥海藻・ツナの缶詰という備蓄食材のみで作った「備災メシ」の備災サラダ。ドレッシングが無ければ、ピクルスの着け汁がドレッシング代わりになります。
このサラダのレシピは、こちらの記事でご紹介しています。
■乾燥海藻を利用する際の注意点
特にワカメは栄養素として「ヨウ素」を含み、ヨウ素を過剰摂取すると甲状腺がんに罹患するリスクがあります。ただ、これまでの研究結果は海藻類を食事にあまり取り入れない欧米人が対象となっており、古来より海藻類を食材として利用する日本人の場合の研究はまだ途中です。
乾燥ワカメを食べる際はワカメ自体を大量には使わず、水で戻した際の戻し汁は捨て、再度サッと洗えばそれほど気にする必要はありません。「過ぎたるは及ばざるがごとし」で何事もほどほどが良いということですね。
③ 野菜ジュース
長期備蓄向きで使い勝手の良い野菜類の1つが「野菜ジュース」。日々の食事に取り入れてるかたも多いのではないでしょうか。
紙パックや缶入りの状態で、コンビニやスーパー、ドラッグストアなどで手軽に購入できるので、備蓄食料の1つとして箱買いしておくのもいいでしょう。
こちらは編集部で作った、野菜ジュースと乾燥野菜・焼鳥の缶詰・コーンの缶詰という、備蓄食材のみで作った「備災メシ」の炊き込みご飯です。レシピはこちらでご紹介しています。
被災時の食事でも、こうした食材を組み合わせることで栄養バランスのとれたものを作ることができます。もちろん、それも「普段からの備え」があってこそ。大震災が起きた後は、こうした食材も店頭からあっという間に消えてしまいます。
■野菜ジュースを使う際の注意点
市販の野菜ジュースは特にトマト系の場合は塩分を含むものも多いので、特に高血圧気味の場合は使う場合はトータルの塩分摂取量に注意が必要です。
また、塩分ではなく糖分の多い(甘い)野菜ジュースも多いものです。砂糖を加えていない製品でも、果物類が入っている場合は素材そのものに含まれる糖質があるため、体質によっては果物類を含まない、野菜のみで塩分も含まないものを選ぶ必要もあるでしょう。
④ 常温保存紙パック野菜(ミックスベジタブル、トマト)
ミックスベジタブルやホールトマトなども、紙パック包装のものが入手できるようになりました。開封して水気を切ってそのまますぐに使えます。
紙パックと言っても内側はアルミなどでコーティングされているため、未開封なら常温で長期保存できるので備蓄食料としても最適。
従来はミックスベジタブルと言えば冷凍食品、ホールトマトと言えば缶詰が主流でしたが、このような紙パック製品なら扱いやすく捨てる際もかさばらずにゴミの量を減らせてとても便利です。
備蓄とローリングストック消費をしていれば、日常の食卓で野菜や繊維質がちょっと足りないなという場合に気軽に使うことができるのでオススメです。
■紙パック野菜使用時の注意点
缶詰などと違い紙パックであるため、衝撃に弱いです。備蓄する場合は、別途丈夫な容器にまとめて収納しましょう。中身は水煮状態になっており塩分を含みますが、食塩換算で内容物100gあたり0.6g程度ですので、塩分に関しては必要以上に気にする必要はなさそうです。
⑤ フリーズドライの野菜スープ類
フリーズドライの野菜スープ類も、お湯さえ手に入れば手軽にいただけて便利なもの。スーパーやコンビニなど、全国どこでも購入できます。
フリーズドライ食品そのものが常温での長期備蓄ととても相性が良いので、災害用としても以前から活用されています。特に野菜を使ったメニューのものはぜひ備蓄に加えておきたいところです。
フリーズドライ食品は予め調理済み、お湯で戻してすぐに食べることができるので、仕事で忙しい日常生活や、キャンプや登山などのアクティビティにも最適。特にスープなら、別途乾燥野菜や海藻などと併せて、野菜たっぷりでいただくこともできます。
また、中には賞味期限が25年間という、超長期の常温保存が可能なフリーズドライ食品として、その名も「サバイバルフーズ」という商品も販売されています。これに関しては、ITOITO-STYLE編集部でも実際に購入して試食レビューをおこなっているので、ぜひこちらもチェックしてみてください。
・賞味期限25年!超長期備蓄食「サバイバルフーズ」を実際に購入・試食レビュー
■フリーズドライ食品を使う際の注意点
とても便利なフリーズドライ食品ですが、比較的しっかりとした味付けのものが多いので、こちらも高血圧気味など体調によっては1食あたりの量を減らし、別途乾燥野菜や紙パックのミックスベジタブルなどを加える工夫が必要な場合もあるでしょう。
まとめ
秋冬に収穫・出荷される野菜類は、夏に種まき・秋口に植え付けされるもの。冬の鍋物には欠かせない白菜も、種まきと植え付けは8〜9月だったりします。
夏の猛暑・酷暑、秋に台風や大雨などの天候不順となれば、当然ながら冬野菜の出荷量や価格に影響が出るのはご存知のことでしょう。日常の食卓からも野菜が減ってしまうことになります。野菜類が不足するとビタミン・ミネラル類や繊維質が不足します。便秘や肌荒れ、むくみ、疲労の蓄積や睡眠不足などの原因にも。
また、これまでの大震災でも避難所でつねに課題となったのが食事の栄養バランスで、食事や炊き出しのメニューとして要望が多かったのが野菜類。どうしてもお米やパンなどの炭水化物が中心となってしまうのが被災直後〜2週間の食事です。
私たち一般庶民の備蓄食料としてすぐに頭に浮かぶのは、乾パンやアルファ米、インスタントラーメン、缶詰などですが、やはり炭水化物中心になりがちです。これからの防災・備災においては、自宅と命が無事な場合は「在宅避難」が推奨されますので、備蓄食料としても、今回ご紹介したような「保存できる野菜類」はぜひ備えておきましょう。
備蓄庫に入れて安心して終わりではなく、古くなったものからローテーション消費(ローリングストック法)して、日常の食卓にも活用できます。また、普段食べ慣れているものであれば、いざというときにも不安なくいただくことができます。